高校化学の教科書の無機化合物・金属イオンの系統分析の単元で
Zn2+ Fe2+ Ni2+ Mn2+ などの金属イオンは、
中性~塩基性の溶液中で硫化水素H
2Sを通じると
硫化物イオンS2-との沈殿となるが、酸性溶液中では沈殿しない。
と、紹介されています。
K+やNa+などのイオン化傾向の大きい金属イオンは
一般にどのような液性の溶液でも硫化物イオンS2-とは沈殿にならず、
逆にPb2+ Cu2+ Ag+ などのイオン化傾向の小さな金属イオンは
酸性溶液中であろうと、塩基性溶液中であろうと硫化物イオンS2-が
混入してくると沈殿を生じます。
では何故、Zn2+ Fe2+ Ni2+ Mn2+ などの金属イオンは、
中性~塩基性の溶液中でしか硫化物イオンS2-との沈殿を生じないのでしょう。
このことは、硫化水素の電離平衡と、それぞれの硫化物の溶解度積の知識
で説明されます。
ではまず、電離平衡の説明から。
硫化水素を水中に吹き込むと、水の中で次のような電離平衡の状態になります。
H
2S ⇔ 2H++ S2-
(本来は2段階に電離しますが、センター試験対策としてはこの理解で充分です。)
硫化水素は弱酸なので、電離度は小さく、平衡は左に偏っていると言えます。
言い換えると、水素イオンH+や硫化物イオンS2-はあまり存在せず、
多数がH
2S分子として存在しているということです。
ここで溶液を酸性にする、つまり水素イオンH+の濃度を大きくすると
ルシャトリエの法則通り、電離平衡は左へ移動し、
硫化物イオンS2-の濃度が小さくなります。
逆に塩基性にしていく、つまり水素イオンH+の濃度を小さくすると
電離平衡は右へ移動し、硫化物イオンS2-の濃度が大きくなります。
では上記のルシャトリエの法則による平衡の移動を思い出したところで、
液性によって硫化物が沈殿になったり、ならなかったりする
イメージをまとめていきましょう。
Pb2+ Cu2+ Ag+ などの硫化物 PbS CuS Ag
2S は
沈殿しやすく、低濃度の硫化物イオンとでも溶解度積をオーバーして
沈殿となってしまう化合物です。
しかし、Zn2+ Fe2+ Ni2+ Mn2+ などの硫化物、
ZnS FeS NiS MnS は、前者に比較すると、少し溶けやすい
物質なのです。(溶解度積が大きいと言い換えてもOKです。)
ですから硫化水素を吹き込まれたときに生じる硫化物イオンS2-の濃度くらいでは
溶解度積をオーバーしないため、沈殿にはなりません。
ですが、溶液を塩基性へと変化させると前述のとおり硫化物イオンS2-の濃度が
大きくなるため、溶解度積をオーバーし、沈殿を生じてしまうというわけです。
ちなみにK+やNa+などの硫化物 K2SやNa
2Sは
溶解度積が大きく溶けやすい化合物ですから、硫化水をを吹き込んだ程度では
どのような液性における硫化物イオンS2-の濃度であっても
溶解度積をオーバーしない、つまり硫化物は沈殿しないということになります。
それでは今回はこの辺で。
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