2015年05月10日

分子でできている物質の沸点・融点の違いを考えるには…。

よく見かける化学の問題として、
「次の物質を沸点の順にならべかえなさい。」…というものがありますが、
沸点や融点の比較は粒子間の引力の強弱を比較していると考えましょう。

ではよく出題される分子結晶の物質の沸点を比較してみましょう。

問題) 以下の各物質を沸点の高い順に並べ替えなさい。

    メタン  フッ化水素  ヘリウム  水  塩化水素

それでは考えていきましょう。
5つの物質はそれぞれ分子でできている物質なので、
沸点の高低は分子間の引力である『分子間力』の強弱を比較する
ということになります。
つまりそれぞれの物質が液体の状態だった場合に、
分子間の引力を断ち切って自由に飛び回る気体にする(沸騰させる)ために
どのくらい熱エネルギーを加える必要があるか、というイメージですね。
言い換えると、「分子間力が大きい方が沸点が高い」ということです。

分子間力は一般に『ファンデルワールス力』と『極性引力』とに分けられます。

『分子間力=水素結合(極性引力)+ファンデルワールス力』です。

ここで、ファンデルワールス力は分子量に比例して大きくなる引力、
極性引力は極性分子間に働く静電気力(クーロン力)です。
少々大雑把な言い方ですが、極性引力が分子間に特に強く働く時、
それを『水素結合』と言います。

ではファンデルワールス力以外に極性引力も分子間に発生するような
分子はどういった種類の分子でしょうか。

分子間の極性引力が水素結合を発生させる程強くなるためには、
電気陰性制度の大きいF,O,Nなどの原子とHの結合が分子末端に存在
する構造を持った分子になります。例外はありますが、高校化学では
F-H,‐O-H,‐N-Hの構造を持つ分子が分子間に水素結合を発生すると
思っていてOKです。

また、色々な結合の強弱は水素結合と極性引力による結合とを区別すると
一般に以下の通りです。

『 共有結合 > イオン結合 > 金属結合 > 水素結合 > 極性引力による結合
> ファンデルワールス力による結合 』
 
さて、問題に戻りましょう。
まず各物質の分子式と分子量、極性の有無を確認すると、

メタン)  分子式:CH4  分子量:16  無極性分子
フッ化水素)分子式:HF  分子量:20  極性分子
ヘリウム) 分子式:He  分子量:4  無極性分子
水)    分子式:H2O  分子量:18  極性分子
塩化水素) 分子式:HCl  分子量:36.5 極性分子

ここで常温常圧で物質がどんな状態か知っていると解答への助けとなります。
つまり水だけが常温常圧で液体として存在し、残りの物質はすべて
気体の状態だと知っていれば、室温程度では水はまだ沸騰していない物質、
言いかえればこの5つの物質の中で唯一沸点が室温以上であるということです。

水が一番沸点が高いということが分かったので、
次は水以外の4つの物質の沸点(分子間力の強弱)を予想していきましょう。

まず、無極性分子であるメタンとヘリウムは、分子間力として
ファンデルワールス力しか働いておらず、その強弱は分子量に比例するので
一番分子量が小さく、分子間力(ファンデルワールス力)が弱いと予想できる
ヘリウムが沸点も一番低く、次に低いのがメタン、ということになります。

さて残ったフッ化水素と塩化水素ですが、この2つはともに極性分子で
どちらも極性引力が発生しています。
分子量に比例するファンデルワールス力は塩化水素の方が若干大きいので
塩化水素の方が分子間力が大きいかと思ってしまいがちですが、
この場合は同じ極性分子でもフッ化水素は前述のとおりF-Hの構造があるため
分子間に水素結合が発生しています。しかし塩化水素は同じ極性分子でも
F-H,O-H,N-Hの構造を持たないため、分子間に水素結合は発生しておらず、
それより弱い極性引力による結合が分子間に発生しています。
ファンデルワールス力はそれらの静電気的な引力に比べるとさらに弱いので
塩化水素の方が分子量が若干大きく、ファンデルワールス力が少し大きくても
分子間の極性引力が水素結合と呼べるほど強く発生しているフッ化水素
の方が、弱い極性引力しか発生していない塩化水素よりも大きな分子間力
となっているのです。

よって沸点もフッ化水素の方が塩化水素よりも高いと言えます。
つまり以下のような答えになります。

解答)

沸点が高い順に、

水 > フッ化水素 > 塩化水素 > メタン > ヘリウム

どうでしたか?考え方は分子間の引力の比較ですが、
分子に極性があるかないかという事は、分子式はもちろんのこと
分子を構成する原子の電気陰性度や、分子の形をある程度覚えて
おかなければなりません。

今回の例題も、答えの順番を覚える頭になるのではなく、
考え方を理解し、問題を解く上で暗記しなければならない分子式、分子の形状、
極性の有無…といった情報を何度も反復してしっかりと自分のものにすること、
それこそが大切です。

私も予備校の授業で、その時間内に反復してもらう余裕がない時は、
「この部分は各自でしっかりと覚えておくとして、その解き方は…」
な~んて解説をしたりします。しかしその場はそれで理解しても
覚えるという作業から逃げ続けては本番に使える実力は身につきません。

理解と暗記、この二つはどちらも大切。

理解をつなげること、暗記の方法を示すこと、
それらは私や他の講師の方々も色々研究し、授業を組み立てたり、
教材を作成したりしています。しかし実際に頑張って暗記する作業は
皆さんが行うしかありません。頑張ってくださいね。

次の機会にはイオン結晶の物質について
その融点を比較する問題をとりあげたいと思います。







同じカテゴリー(受験)の記事
がんばれ!受験生!
がんばれ!受験生!(2022-02-23 19:05)


Posted by ミーケン。 at 14:50│Comments(4)受験
この記事へのコメント
すげー読みにくい
Posted by 青虫 at 2021年01月03日 14:56
とても良く理解できました!ありがとうございます
Posted by 味噌 at 2021年11月05日 07:42
死ぬほどわかりやすい 謝謝
Posted by みみのみ at 2024年01月08日 15:42
コメントありがとうございます。
みみのみさんの役に立てたようで何よりです。
今後も頑張ってくださいね。
Posted by みーけん。 at 2024年01月11日 08:39
 
<ご注意>
書き込まれた内容は公開され、ブログの持ち主だけが削除できます。